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挿絵~小説~

~王家の船~ ・神風型宇宙駆逐艦ハヤテ PAT0・1(前編)

ここから本編に入ります


PART.1
王家の船ハヤテ発進


西暦2990年4月9日


この年を地球人類は未だ忘れることが出来ない
長く苦しい戦いの始まりはこの瞬間から
始まるのだ


その時代・・地球は一つの惑星国家となり
銀河連邦の一員となっていた。



この日3人の少年が山道を歩いていた
3人は名前を ・大城誠矢 ・響竜一
・坂巻進吾 といった。


3人は大城誠矢の叔父の家に向かっていた
大城誠矢の叔父は地球連邦太陽系防衛隊の
レーダー監視官だった。


一見気の弱そうな見た目の少年が
凛々しい目元をした少年に尋ねた


「誠矢君、君の叔父さんの家はまだ?」


誠矢と呼ばれたその少年は聞かれたことに
またかと思いながら顔に出さず答えた


「そこの峠を越えたら直ぐだよ」


「そうか・・遠いな~」
気の弱い少年は不平こそ言わないが
遠回しに疲れたと言っている


そんな二人を見守る坂巻少年の瞳は鋭い
ながらもとても優しいものだった。


やがて峠を越えると、その先に
監視所が見えてきたのだが・・・


眼孔鋭い坂巻少年が何かを見つけた
「何か向こうから地面スレスレに
飛んでくるよ」


「えっ!?」
他の二人はそんな物は見えなかった


だけど直ぐに


一つの飛行物体が現れミサイルを発射した


ミサイルはそのままレーダーサイトを
破壊する


その途端巻き起こる爆炎と爆風が見えて
それから少し遅れて爆発音がこちらまで届いた


その次に家の中から一人の
男性が飛び出して20ミリ砲
パルスレーザー銃座に飛びつくと
未確認飛行物体に向かって銃撃を始めた。


パルスレーザは未確認飛行物体を撃墜したが
未確認飛行物体も2発のミサイルを発射していた。


一発は家の屋根を吹き飛ばし
もう一発は銃座の直ぐ側に当たり
銃座は無惨に吹っ飛んだ


これはほんの数秒の出来事だった・


誠矢少年たち3人が急いで現場に向かうと
破壊された銃座の側に一人の男性が
ボロ布のように傷つき横たわる姿がある


それはやはり誠矢少年の叔父だった
「叔父さん!叔父さん!しっかり!」


だが誠矢少年の必死の呼びかけも虚しく
彼の叔父さんはピクリとも動かない
「残念だけどもう亡くなっている誠矢君・・」


響少年は先程までとは別人のように
しっかりと友人の肩を支える
どうやらこの少年は緊急時にこそ
力を発揮するタイプの様だ


そしてもう一人の坂巻少年もただ者ではない
撃墜された未確認飛行物体を一目見て
「こんな機体地球には存在しないよ」
冷静に分析しながら他に敵が居ないか
辺りを警戒している


誠矢少年もその二人の様子に
勇気を呼び起こされる
「解った・・もう大丈夫だ」


その時
燃えさかる家の中から人の声が聞こえた
「!!」


3人は危険も省みず家の中に飛び込んだ
  そして


燃え落ちた柱に下敷きにされている
一人の女性を発見する
「叔母さん!」


誠矢少年は直ぐにその人が叔母だと確認した
「叔母さん大丈夫!直ぐに助けるから!!」


その声に反応してその女性は弱々しい声で
誠矢少年の手を握る
「そ・・その声は・・誠・・矢・・ちゃん・・
わ・私はもう・だめ・・お願い・・
真・・真耶を・・真耶を頼み・・ま・・す」


そこまで言い終えて女性は事切れた。
「叔母さん!!」


誠矢少年の目に涙が滲む
だが真耶と言う名を聞いて
今にも倒壊しそうな家の中を
3人の少年は懸命に探しはじめた


「どこだー真耶ちゃーん!」


「何処にいるのか返事をしてくれ!」


「真耶ーっ!」


そして家の風呂の中に
避難させられ気絶していた
その少女を、響少年が発見し
そのまま背中にオンブして


倒壊を始めた家の中から必死で
走り抜ける


少年達はその少女をギリギリの
タイミングで助け出す事ができたのだった。


「もうすぐ助けが来てくれるよ」
坂巻少年が携帯電話で消防に連絡して
ドクターヘリが到着したのは
それから十数分後の事だった。


西暦2998年
事件から8年が経っていた


地球は謎の勢力の攻撃を受けており
その戦況は一進一退である。


5月11日
この日、防衛隊司令所に
3人の青年が呼び出された


彼等こそ18歳の逞しい青年に成長した
 大城誠矢 ・響竜一 ・坂巻進吾 である


「大城誠矢以下2名、召集に従い
出頭致しました!」


3人の青年達の前には燻し銀の渋さと
凄みを持つ初老の軍人が立っていた


大城誠矢は太陽系防衛隊司令である
小田吉宗に敬礼する


「うむ、良く来てくれた」


司令は早速要件を誠矢に伝えた
「後3人呼び出しているが話しておこう
・・・木星基地が陥落した」


3人は絶句する


「信じられない!」
誠矢は他に言葉がなかった


響も誠矢と同意見だ
「その情報は本当ですか!?」


坂巻は一人冷静である様に見える


小田司令は話を進める
「この戦いで地球艦隊は
30パーセントの戦力を失ってしまった」


30・・・その被害は
余りに計り知れない被害の大きさだ


一体どれほどの人命が宇宙で犠牲に
成ったのか


「本当なんですか・・小田司令・・」
悲痛に顔が歪む誠矢


小田司令は静かに頷き
「君達に来て貰ったのは或る極秘任務に
着いて貰いたいからなのだよ」


その時インターホンが鳴り
(崎景子 大城真耶 出頭致しました)


その声を聞き小田司令は
誠矢達3人に待つように手で合図し
「入りたまえ」と
それだけを伝える


誠矢は極秘任務に真耶や景子まで
呼ばれたのに驚く


何かの意味があるのか?
この5人は全員、同じ時を過ごした
幼なじみだった。


小田司令は意味ありげに小声で
「宿命の5人が全員揃った様だな」と呟いた。


何を説明されたのか5人は
それぞれ複雑な表情をしながら
司令所を出ると家路に着いた。


大城誠矢が歩いていると後ろから
可愛い少女が声を掛け走ってくる
「誠矢兄さーんちょっと待って!」


誠矢はその声に立ち止まり
後ろを振り向く


そこには可憐で儚げな美少女が立っていた
誠矢少年達が命懸けで救ったあの少女の
成長した姿であった。


誠矢と真耶は8年間実の兄妹のように育ってきた
「何だ真耶か」


誠矢のぶっきらぼうな物言いに真耶は
柔らかそうなモチモチしたホッペを
膨らませながら
「何だはないでしょう?」と
指を指し誠矢に詰め寄る


誠矢は真耶にタジタジだが
「そう怒るなよ、キャサリンが
 待っているんだよ」


真耶は腰に手を当てながら首を傾げて
「いくら明日結婚するからって私を置いて
行く事ないでしょう?」


キャサリンと言うのは日本人とアメリカ人の
混血で正確な名前はキャサリン森本と言った。


太陽系防衛隊隊員養成学科で出会った
二人はいつしか恋をし婚約した
そして明日がその二人の結婚式なのであった。


この状況でとはと言われそうだが
今後、誠矢が防衛隊の任務に就けば
殉職という事態さえあり得る
そう考えれば先に式だけでも挙げて
新婚旅行は延期という話になる


家に着くと誠矢は早速
司令所に呼ばれた理由を
誠矢の両親と一緒に応接室に
いたキャサリンに、説明した


誠矢の父が
「それで明日は何時に帰宅できそうだ?」


その問いに誠矢は
「結婚式の3時間前には帰れますよ
父さん」と答えた


母の隣で不安げにしている
キャサリンだが
「誠矢さんが無事に任務を果たして
帰るのを信じて待っています」


その蒼い瞳は誠矢が心配で堪らない
愛情の籠もった優しい光に満ち溢れていた


この女性を悲しませない為にも
俺はこの任務を無事に果たしてみせるぞ!


そう心に堅く誓う誠矢だった。


翌日
誠矢と真耶の二人は司令部の命令通り
犬吠岬に向かいそこで防衛基地に入る


そして地下800メートルまで
エレベーターで降り、そこで
一隻の宇宙駆逐艦を見た


謎の鑑の概要
全長133メートル
全幅13メートル


「こんなところで戦艦を造っていたのか・・
それにしても小さいな・・どう見ても
小型艦サイズしかない」


誠矢はこんな小さな戦艦をわざわざ
こんな地下工場で
秘密裏に造船する司令部の意図が
良く解らない、だがこの船には何か奇妙な
違和感を感じる


白銀の船体に蒼いラインが美しい
そして戦艦なのに飛行機のような
鋭利な角度の三角型の両翼


通常の地球戦艦からは逸脱したデザインだ
そして何よりも窓が一切無い
電子戦特化型なのだろうか?


そして真耶が
「小さいけど綺麗な船ね・でも・・
・これで戦えるの?」と発言した


この会話を一人の男が聞いていた
「今の言葉は聞き捨て成らないな」


二人に声を掛けてきたのは見慣れない
デロリとした二枚目風の背の高い男だった


「このハヤテの設計には4年掛かっている
船の設計も全て私が設計したものだ」


真耶は慌てて謝罪した
「ど・・どうも・すいませんでした!」


その背の高い男は手を挙げて
「いいや・・私の方こそ大人げなかったよ
お嬢さん」


誠矢はこの男の発言からハヤテの設計に
係わったものと判断し聞いてみた


「もし良ければこの艦の性能を聞いても
良いですか?」


この艦の設計者を名乗る男は
性能を聞かれ得意げに話し出す
「私が設計したこの神風型駆逐艦
艦名をハヤテと呼ぶが」


・平時巡航速度は高速の
50パーセントから80パーセント


・主砲は50センチ砲3連6基


・副砲25センチ砲2連4基


ありえない
誠矢は今聞いた兵装がこの船には
オーバーサイズだと言おうとするが


それを察するように彼は再び手を揚げ遮り
「まあ 細かい事は乗艦した後で良いだろう
大城誠矢・総戦闘隊長」


自分の設計した艦を紹介するのが先になり
やっと彼は自分の身分と名前を明かした
「名乗るのが遅れて大変失礼した
私の名は春吉進一郎・ハヤテの総科学長だ」


艦からのビームで転送され瞬間的に
誠矢達3人はハヤテの中に移動していた


天の川銀河連邦に関係する文明国からの
譲渡装置である転送装置は大変貴重ものだ


たかが駆逐艦に装備するなんて・・
軍事上からしてあり得ない
そんな些細な疑問は誠矢が目にした次の
光景に比べたら大したことではなかった。
「うおぉ・・」


誠矢はその違和感の原因に気が付いた
「何だ!?」


一見して艦の大きさと中の広さが
全然釣り合わない
まるで1000メートルクラスの
巨大戦艦並の空間のゆとりを感じる


真耶は呆然として一言
魔法みたいだと呟いた


誠矢は科学的な技術で此を実現させている
この設計者を驚異の目で見ていた


「これは確かに・・最高機密・扱いなのが解る」
柄にもなく血が熱くなるのを誠矢は感じている


地下工場の中で駆逐艦サイズのハヤテは
昇降式ハンガーの上に乗せられていた


発進の際はこのまま一気に海上まで
ハンガーごと運ばれる方式となっている
軽量艦ならではの発想だ。


「それでは艦橋に案内しよう」
春吉がそう言った時だった
突然、緊急警報がけたたましく
鳴り出した


更に


<第一メンバーは直ちに第一司令室に
出頭せよ!>
この命令を数度繰り返すアナウンスが
艦内に流れる


第一メンバーとは正しく
自分達のことだ


誠矢と真耶は春吉に連れられ
第一司令室である艦橋に飛び込んだ


誠矢はそこで見知った顔に出会う
この第一司令室に居るのは全員
自分に関係のある人物ばかりだった


そして大城誠矢は自分が最も尊敬する
偉大な英雄である 勝・艦長に対し敬礼する
「総戦闘隊長 大城誠矢着任しました!」


数々の戦いを勝利に導いてきた伝説の艦長
それがこの 勝流水艦長だった


信じられない・・夢じゃないのか!?
真耶もそれに続く
「コンピューター操作長 大城真耶
着任いたしました!」


勝艦長は深く頷き二人に
「二名とも御苦労、直ちに席に着きたまえ」


二人は防衛隊流儀の敬礼をし
それから各の席に着いた


誠矢の隣の席には響竜一が座っている
何が起きたのか聞いてみると
「敵の強襲でT都市エリアが
攻撃されているんだ!」


それを聞き誠矢は
「着任早々に実戦だな」
誠矢は状況を理解し戦いの覚悟を決める


「予定ではテスト航海だけの筈なのが
ついてなかったな誠矢」
響の言葉に誠矢は首を振り


「木星の事を考えれば全てが前倒しに
なるのは仕方がない」


メインモニターにハヤテの現在の状況が
簡単な略図で写しだされ
春吉総科学長がその映像に合わせて説明する
「ハンガーブリッジ内注水量
80パーセント!」


勝艦長は響竜一・総運航長に命じる
「響!サブエンジン始動開始」


「了解!ハヤテ・サブエンジン始動!」
ハヤテのサブエンジンは始動を開始した


「注水100パーセントカタパルト
移動開始」
春吉・総科学長が説明を始める


「ハヤテを発射するカタパルトは
全長15キロメートル水深800あり・・」


「排水量1400トンのハヤテを3分5秒で
海上に打ち出すことが可能である」


乗った感覚では1000メートル級なのに
やはり大きさだけでなく重さまでもが
・・軽い・・軽すぎる!
誠矢がハヤテの違和感に戸惑う間にも


総科学長の言葉に違わず3分5秒後
海面は大きく盛り上がり
海を貫く凄まじい波飛沫と轟音を立てながら
波の先端からハヤテは勢いよく飛び出した


「神風型宇宙駆逐艦ハヤテ発進!!」
ハヤテはその美しい白銀の船体を
輝かせながら青空に向かい雄々しく
飛び立たった。


敵が強襲したT都市エリアは
今や阿鼻叫喚の地獄と化していた


地球に備わる宇宙防衛の戦力も
木星攻防戦の影響で大きく損なわれ
その防衛力は悲惨な状態であり
その窮状を敵につけ込まれたのだ。


日本ブロックの防衛力を削り諸外国の
守りに回したのが仇となった形だが、
日本防衛隊はこの時代
世界の防衛を担う要となっていたのである
責任或る立場として、この判断は仕方がなかった


そして敵もその動きを察知し
目障りな日本に直接打撃を与える
好機だと、この作戦に出たと推測された。


ハヤテのブリッジで勝艦長は
敵の狙いに怒りを感じつつ
悪まで冷静に指揮を執る


貴様等の狙いは悪くはないが・・
残念ながら日本には地球の最新鋭にして最強の
超戦力が存在する、今からそれを嫌と言うほど
思い知ることになるのだ


「敵戦力はどうなっている?」
勝艦長は 崎・景子 総観測長に聞く


彼女は凛々しく日本の
大和撫子の鏡のような女子である


その濡れ椿の黒髪は腰まである長髪の
お姫様カット、その見かけに関わらず
芯の強い女性だ、彼女は沈着冷静に
敵の分析結果を勝艦長に伝えた


敵戦力判明
戦艦4隻・ミサイル艦22隻 
・駆逐艦艦44隻 以上です


凄まじい数の艦隊だ
ハッキリ言って駆逐艦一隻で戦うのは
無謀である。


「何て数だ・・ハヤテ一隻で本当に
相手をする気か?」
正直、無茶だと思ったが艦長は冷静だ


一方で敵艦隊も
突然一匹だけ現れたメザシに
苦笑いしていることが
通信を通して伝わってくる


「おいおい何だあのミニチュアは・・」


「地球にはもう、あんな雑魚しか
残っていないのか?」


「哀れなものだな・・」


そのやり取りを聞くだけで誠矢は
心にあった恐怖より大勢の人命を無慈悲に奪った
敵に対しての激しい怒りを感じた


勝艦長は誠矢に命じる
「敵艦にめがけハヤテの主砲を
発射せよ!」


誠矢は絶対に外してなるものかと
ハヤテの主砲で狙いをつける


敵艦隊の戦艦はそんな駆逐艦の
主砲で狙われても驚異を一切感じて
いなかったのだろう、平気で構えている
ホラ撃って見ろと言わんばかりだ


ハヤテをせせら笑う声が
通信機から漏れ聞こえる


「主砲アレキサンドライト発射!」


艦長の号令で誠矢はトリガーを
握りる指に力をいれた。


「喰らえ侵略者共!」


すると駆逐艦サイズの細い砲門では
あり得ない威力の破壊エネルギーの塊が
敵艦めがけて飛んでいき


敵艦の防御シールドを難なく貫通して命中
一撃で戦艦が命中した箇所からへし折れながら
大爆発を起こした


撃った誠矢自信があまりの破壊力に絶句する
「な!なんて威力だ・・!?」


敵艦隊もその破壊力に戦慄し
ハヤテに向けてがむしゃらに砲撃を開始した
「混乱した敵艦隊が滅茶苦茶に撃って来ます!」


誠矢がそう叫ぶと勝艦長は
「弾幕のつもりだろうが・・ハヤテには
通用せん!」


「響!敵艦隊の間を縫うように飛び回れ」
艦長の言うとおり響は見事な繰艦で
ハヤテを操り敵艦隊の中を飛回る


そしてハヤテの小ささに加え
その俊敏な動きに
とても対応できない敵艦隊は
味方艦どうしで同士撃ちとなってしまう


そして超接近状態でのハヤテの強力な主砲の
餌食となる事でその数をどんどん
減らしていった。


駆逐艦サイズなのにパワーも
スピードも桁違いだ・・
この艦は・・次元が違う
誠矢の知る一切の常識がハヤテには
通用しない


敵艦はハヤテの主砲を
胴体に喰らうと全て一撃で大穴が空き
なす術もなく撃沈された


一体この船は・・何だ!?
誠矢の乗ったハヤテは
新鋭駆逐艦としての初戦を
こうして鮮烈に飾ったのだった。


「敵艦隊は全て撃沈しました」
自分の見た光景が信じられないと言うように
崎・景子 繰観測長がそう報告する中・・


誠矢を始めハヤテブリッジの殆どの
クルー達も景子と同じく
この奇跡に戸惑いを感じていた


「本当にたった一隻で・・あれだけあった
敵艦隊を・・全滅させた」


「いくら最新鋭艦だと言っても・・
程があるだろう?」


「俺達は夢でも見せられているのか?」


だがその中で
勝艦長はこの大戦果を当然の結果の様に
落ち着いて受け止めている


そして戸惑う誠矢を見ながら
春吉・総科学長が小さく呟くように
「どうやら・・同調は上手く出来た様だな」
そう言って安堵の息を吐いた。


勝艦長が響に命じる
「よし、海底基地に帰投する
響 総運航長 ハヤテ発進!」


「了解!」
そしてハヤテは海底基地に向けて
帰投した。


大城誠矢は真耶・響・坂巻・崎の
4人を連れて攻撃された都市に
防衛隊の装甲車で向かう


怯えている妹の肩を抱きしめながら
誠矢のその胸中は穏やかではない
(キャサリンどうか無事でいてくれ)


敵の大艦隊に無差別砲撃され
更にミサイル攻撃まで受けたT都市は
短い時間で完全に焦土と化していた


装甲車でなければとても通れない
凄まじい有様の道を進んでいく


巨大なビル群も瓦礫の塊とかし
生きている人間は誰も居ない


まだ敵の正体は解らないが
此をした敵に誠矢は激しい怒りを感じた


「畜生・・まるで地獄みたいだ」
響の震える声にも怒りが滲む
坂巻は黙って震える景子の手を握っている。


道中、装甲車の走破性能の高さが味方し
何とか、誠矢とキャサリンが式を挙げる
予定の教会にたどり着けたのだが


無惨にも・・


「うあ・・あああ・・」


郊外にあったにも係わらず
その教会が見る影もない程に破壊尽くされ
瓦礫の山となり崩れ落ちていたのである


絶望・・そして焦燥感


大城誠矢は膝から崩れ落ちた


と・・父さん・・母さん・・キャサリン
・・返事を・・・返事をしてくれ


必死の救助活動が此ほどまで
無駄になった事も他にないー
この日多くの人々が親と子供と恋人を
愛する人たちを一度に失い失意のどん底に
突き落とされてしまう


後にその生存確率は0、02パーセント未満
だったとニュースで伝えられた。


地球政府は破壊された日本ブロックの
T都市エリアを完全封鎖し
全ての犠牲者の慰霊碑を一カ所に集め
合同埋葬という形で弔った。


喪服を身に纏った誠矢達5人が
揃ってその地に訪れた


誠矢の両親の墓標の横にキャサリンの
慰霊碑も立てられている・・それが
天涯孤独だったキャサリンへのせめてもの
手向けだと誠矢は思う


それから誠矢は隣にいる真耶に向かい
「このペンダントを渡すように・・
母さんから真耶へと言われていたから・・」


真耶はそのペンダントを涙ながらに受け取った
そのペンダントの色は清らかな蒼色だが
どこかハヤテの蒼を思わせる神秘的な
色彩だった。


そのペンダントを通して真耶には何故か
亡くなった誠矢の母の声が聞こえた気がする


それはその場にいた全員が不思議なことに
同時に感じた感覚だった


誠矢・・それに真耶・・あなた達は
私達が居なくても孤独ではありません・・


坂巻君や響君・・それに崎さん
あなた達5人は・・運命で結ばれた
5人なのですから・・


「母さん・・」
誠矢の手をペンダントを持った手で
握り真耶は肩を震わせ嗚咽を漏らす
「お母さん・・」


響 坂巻 崎は背を向けて
この悲しみを噛みしめる



「惨い・・あんまりだ!いったい何故
ここまで酷い事が出来る!?」
響きの言葉に続き


「許さない・・俺はこんな事をする奴等を
絶対に許さないぞ!!」
大城誠矢は全ての犠牲者の墓標に向かい
正体不明の敵に対し復讐を心に誓う。


誠矢と真耶が二人で家に戻ると
ガレージに赤い車が止まっていた


それを見て誠矢はため息を漏らす
「皮肉だな・・キャサリンにプレゼントする
つもりで買った車が・・キャサリンの命日に
届くなんて」 


隣にあるのは誠矢の車だ
それから誠矢は真耶に車のキーを渡し
「この車はお前の物だ真耶・・キャサリンの
代わりに乗ってやってくれ」


そう言うと誠矢は無造作に玄関を開き
無言で家の中に入っていった。


「誠矢兄さん・・」


戦争に大切な家族を奪われ恋人まで
失った兄に真耶は、かける言葉が
見つからなかった。